September 14, 2025
10 PM
日本企業は、システムコストの削減、排出量の削減、再生可能エネルギーへの投資促進を実現しながら、時間単位で見ても電力需要の90%をクリーン電源で賄うことができる
2030年までに、電力消費の90%を時間単位(24時間365日)のカーボンフリー電力でまかなった場合、日本は資金流出を年間2600億円弱、排出量を年間1150万トンを削減可能。従来の年単位のマッチングでの予測値を上回る見込み。
- 2030年までに、電力消費の90%を時間単位(24時間365日)のカーボンフリー電力でまかなった場合、日本は資金流出を年間2600億円弱、排出量を年間1150万トンを削減可能。従来の年単位のマッチングでの予測値を上回る見込み。
- この90%CFEのシナリオでは、オフテイカーの排出係数は、年単位のマッチングの場合と比べて74%近く減少する。
- 時間単位の90%CFEマッチングは単価が12.2円/kWhで供給可能であり、これは2019年から2024年にかけて記録された国内卸売市場価格の平均よりも安い。
2025年9月8日、ロンドン:
エネルギー転換政策分析を行う非営利団体TransitionZeroの新たな分析によると、24時間365日のカーボンフリー電力(CFE)は日本で、費用対効果の高い調達方法であり、産業部門の消費者によるエネルギー転換目標の達成を後押しする上、電力システムに純利益をもたらすことが明らかになった。
現在、多くの企業は電力消費量と再生可能エネルギー発電量のマッチングを年単位合計で行っているが、マッチングを時間単位に移行した場合、環境への影響はより大きくなるという分析結果が得られた。時間単位で電力消費量の平均90%をCFEとマッチングした場合、オフテイカーの排出係数は、年単位のマッチングの場合(273gCO2/kWh)と比べて74%近く減少し、72gCO2/kWhとなる。
モデリングによると、90%の時間単位マッチングを採用することは経済的に理にかなっている。最適化された太陽光発電、陸上風力発電、蓄電池の組み合わせによるPPAの単価は、年単位のマッチング(7.9円/kWh)から90%の時間単位のマッチング(12.2円/kWh)へ移行すると、確かに上昇する。 ただし、90%の時間単位のCFEは、2019年から2024年までの国内卸電力市場価格の平均値である 16円/kWhと比べると、23%強安い。*
時間単位のマッチングに移行することで日本は国全体で便益を得られる見込み。90%の時間単位のマッチングシナリオでは、再生可能エネルギーの導入により、年間2579億円相当の化石燃料使用量を削減できる。これは年単位のマッチングの場合(2523億円)を上回る。企業が時間単位のマッチングでより高いCFE比率を目指せば、システム全体の便益も向上し、100%マッチングなら年間30億米ドル近くに達する。
分析の結果、90%から100%というCFE増加の最終段階では、よりコストが高くなることが確認された。この最後のステップでは、再生可能エネルギーとストレージに対するシステム全体の年間資本支出を4242億円から7982億円に増やす必要がある。しかし、液体空気エネルギー貯蔵(LAES)や炭素回収・貯留(CCS)付きガスのような給電指令可能な技術を組み込むことにより、資本支出は大幅に低下し、100%CFEの場合は最大561億円に削減される。
長期エネルギー貯蔵と革新的火力発電の技術は、激しく競い合っている。 分析によれば、CCSはコスト削減に寄与し得るが、それは燃焼によるCO2の70%が日本で貯留される場合に限られる。 例えば、CCSの貯留は日本政府が覚書を交わしたマレーシアなどで行われたり、回収・貯留率が排出量の70%以下になったりすると、CCSの経済性は著しく低下し、LAESが有利になる。 アンモニアや水素の混焼は、現時点では2030年に向けて経済的な選択肢になるとは言えない。
この分析から、連系線の重要性も明らかになった。東京、関西、中部などの需要集中エリアでは、再生可能エネルギーの必要導入量が近年の実績を上回っている。幸いなことに国全体では、隣接エリアには想定需要を満たすために十分な再生可能エネルギーがあるが、連系線を効率的に利用し、CFEを負荷が大きいエリアに送電する必要がある。
TransitionZeroの共同創設者兼CEOであるマット・グレイはこう語る:
「当社の日本に対する分析によると、PPA(電力購入契約)を通じて時間単位の電力消費量の90%をカーボンフリー電力でまかなう場合、企業は年単位のマッチングと比べて排出係数を約4分の3削減できることが示されています。同時に、PPA単価は2019年(コロナ禍前)の年間卸価格平均よりも依然として低い。同じシナリオにおいて、日本の企業の3%が時間単位で90%CFEを導入した場合、日本全体で年間最大2600億円弱の燃料コスト削減と最大1150万トンCO₂eの排出量削減が可能となり、2つの側面で年単位のマッチングによる効果を上回るメリットが得られます。」
TransitionZeroの東アジア担当リード・アナリスト、アレックス・ルタの説明は次の通り:
「当社の調査結果によれば、日本の商業・産業界が、電力消費量に対してカーボンフリー電力を時間単位で90%マッチングさせた場合、年単位のマッチングと比べて排出係数を74%削減できることがわかっています。 また、日本では再生可能エネルギー設備の拡大が最近になって減速してきていますが、それでも、最新の技術を活用することで企業が排出量を削減できる点にも注目しています。液体空気エネルギー貯蔵を利用することで、再生可能エネルギーと蓄電池の新設容量を10GW削減できます。CCS付きのガスタービンでも同様の効果が期待できますが、そういう結果は排出量の70%以上が日本国内で貯留される場合のみに限られます。」
TransitionZeroは、日本の電力系統を時間単位でモデル化し、本土の9つのエリアにおける運用を、連系線を考慮に入れて計算した。そのモデルは、発電所の運用実績を考慮して調整され、過去の容量増加の傾向を組み込むことで、2030年時点の現実的な電源構成を算出する。
終わり
レポート全体のダウンロードは[こちら]
TransitionZeroについて
TransitionZeroは2021年に設立されたエネルギー転換政策分析を行う非営利団体であり、脱炭素化計画を支援するためのシステム・モデリング・データ、ソフトウェア、分析を提供している。当団体のツールは、世界中の政府、開発者、投資家、シンクタンクに利用されている。
連絡先:
レニー・カルヌンガン
TransitionZero コミュニケーション・マーケティング暫定責任者renee.k@transitionzero.org
分析方法
TransitionZeroが行った、日本における24時間365日CFEのシステムレベルでの影響に関する研究は、高度なモデリング・アプローチを用いて、異なるクリーンエネルギー調達方法が系統と調達コストに与える影響について分析している。ここでは、2030年における3つの主要シナリオを実行する。「ブラウンフィールド」参照シナリオ(CFEなし、年単位のマッチングなしを想定)、100%CFE年単位マッチングシナリオ、そして時間単位の各種マッチングシナリオ(70%~100% CFE時間単位マッチング)である。需要の伸び、技術コスト、燃料コスト、国の政策などの要素を考慮し、発電所、ストレージ、送電の最適な増設と発電所の運用について判断し、システム全体でコストの最適解を目指す。この研究では、特に全国の電力需要の3%が時間単位のマッチングに移行していることに注目している。このモデルでは、さまざま発電方式(太陽光、風力、蓄電池、長時間エネルギー貯蔵、革新的火力発電方式**)が、システムのCFE目標実現、コスト、排出量にどのような影響を与えるかを調査している。
*すべてのコストと価格は、実質日本円(2023年基準)で表示されている。本プロジェクトの計算は当初米ドル建てで実施し、1米ドル=140.53円の平均換算レートを用いた。
**炭素回収・貯留付きのガス(最終貯留率70%)、石炭・アンモニア混焼(混焼率20%)、ガス・水素混焼(混焼率10%)を備えた発電所を含む。